Evidence Based Healthcare Council

 健康情報の新しい「たくらみ」:情報保護から共有へ

(ブログ「患者の語り 医療者の気づき」掲載分より引用)

中山健夫/EBH推進協議会特別会員・医学研究科

昨日は尊敬する大先輩学者、西村周三先生(京都大学元経済学研究科長、現在は副学長)とNPO法人EBH推進協議会の方々と夕食をはさんで4時間近く、新しいプロジェクトの相談をしました。このグループでは、昨年は全国の検診企業(フェニックスケア・サービスフォーラム)と、その受診者の方々にご協力頂き 「糖尿病についての全国意識調査2009」を実施し、その成果をもとに「日本の国民病:糖尿病にどう立ち向かうか」と題して東京国際フォーラムでシンポジウムを行いました(3月14日のNHK「日曜フォーラム」で放映されました)。今は京都で毎月「情報素材料理会」を行い、健康・医療関係の研究者からの話題提供と、関心を持つ企業の方々の意見交換と交流が図られています。私も6月に「健康情報学の挑戦:リテラシーから共有決定へ」というお話をしました。ここで現在、計画しているのが“カラダマップ・プロジェクト”です。目指すところは「自分自身のさまざまな健康情報を、みんなで『共有すること』を通して、日本人の健康づくりに貢献する」―というもので、新しい可能性のある、おもしろい企画になるかもしれません。

平成17年に個人情報保護法が全面施行されてから、なにか窮屈さを感じるようになったのは私だけでしょうか。「個人情報は守ることが大事」「自分のものは外に出さない方が良い」という風潮になり、お互いが自分のことを出し合わなくなった結果、世の中の個人主義、孤立主義的がさらに進んでしまったように感じてしまいます。個人情報保護法が悪い、というわけではないのですが、この法律にも明記されている通り、「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護する」こと、つまり本来、大切なことは個人情報の保護と活用の調和のはずです。

“カラダマップ・プロジェクト”は、個人名はきちんと匿名化した上で、健診結果や生活習慣、その日の気分や調子(場合によっては幸福度も??ただ今、議論中です)を、個人が持ち寄って、自分自身と他の人達を見比べながら、大きくてダイナミックな日本人の健康像を描き出していく仕組みを作ることです。自分の情報を出し合うことで、自分にとっても良いことがある-例えばそれは、「全体」の中で「自分」はどこにいるのか知ることだったり、一人ではできない何か大きな取り組みに、自分が役立っている、という感覚を持てることかもしれません。「どんな新しい情報が得られる?」「それでどうする?」・・ということは、これからさらに頭を使っていくとして、NPOは100万人参加目標(!)とのことで、新しい何かを発見できる可能性がいろいろありそうに感じています。
西村先生によると、このような取り組みは「ソーシャル・ベンチャー」と言われる新しい潮流の一つとのことです。先生は、「企画」の「企」の字、「たくらみ」「くわだて」というメッセージも伝えたいですね、とおっしゃっていました。「たくらみ」というと、隠れて「良くないこと」を巡らすような、ちょっとスリリングな響きですが、今まで無いような、大きなことをやってみようとすることは、「秘密の良くないこと」と同じくらい、そして、それ以上に、ずっとエキサイティングな「たくらみ」になるでしょう。