Evidence Based Healthcare Council

ニッポンの“カラダマッププロジェクト”の理念

(2010年8月20日 情報素材料理会での解説映像をテキスト化)

西村周三/EBH推進協議会理事長・医療経済学者
(2018年現在:当協議会 特別顧問)

 
 今回、糖尿病の事例で、調査・報告ができたわけですが、私どものこういうことをやっている意図というのは、お医者さんがやるべきことを私たちが別にやろうという訳ではなくて、お医者さんがどうしてもやりきれないとか、お医者さんだけでは充分できないようなことをやっていきたい。
 今回の糖尿病意識調査もその一環ではあるのですが、ニッポンのカラダマップ・プロジェクト 健康情報をともに使おう こういうプロジェクトを考えておりまして、趣旨、理念についてはこのままですが、次のたくらみというのはいいのかどうか議論したのですが、最終的にこういう表現になりました。

 具体的にどういうことかと言いますと、今回の糖尿病の話をスタートしたときに、私たちが考えていましたのは、この間NHKテレビでもやったのですが、お医者さんに行って自分の糖尿病をしっかり治そうとする、ある種、意志のすごく強い方がおられます。こういう方は、別に心配しなくてもお医者さんといろいろ話をしながら自分の糖尿病を考えていただければいいのですが、なかなかできない、また糖尿病と言われてもお医者さんにいろいろ理由をつけて行かない方がいる……その気持ちはわかりますので、非難する意味で言っているのではないのですが……こういう方を中心に、いったい毎日どういう生活をしているのかということは、残念ながら諸外国では今少しずつ進んではいますが、日本では、必ずしもお医者さんに来ない人が、どのように考え、どういうことをやっているのか、という糖尿病患者の実態がわかっていません。

 こういう分野の話は、さきほど薬の紹介がありましたが、薬に関しては、治験というのをやりながら治るかどうかを調べることができますが、そもそも普通の糖尿病と言われてもなかなかお医者さんに行かない方……相当多いですが……あるいは血圧が高いという診断を受けて、血圧を下げる薬を飲みながら先生方と治療をするという方もおられますが、それも途中でドロップアウトするというような方もたくさんおられます。そもそも、はっきり言えることは、たまにしかお医者さんに行かないという人が圧倒的に多い。そういう人たちを放置して置くとどういうことになるか、という話のデータは、お医者さんに叱られますが、あまりわかっていない。先生方は放っておいたら大変なことになりますよとおっしゃるのですが、その放っておかれた方のデータはないわけですから、本当はわからないんですね。だいたい予想はついて、放っといたら大変なことになるのは間違いないですが、実際問題どの程度放っておかれたらダメかはわかりません。

 他方で私たちは、今、いろいろな健康データを、自分たち自身でデータをとったり……たとえば血糖値だって最近は自分で調べることができたり、血圧も自分で測定できたりというようなことがあります。その時に私たちが、今回是非流したいと思うメッセージは、自分のデータを人に提供することによって、たくさんのデータが集まり、そのデータがもう一回自分に跳ね返って役に立つんだ、ということ。これは、特に日本においてこういう発想が欠けている。変な言い方でピンと来ないかもしれませんが。
資料に前提とありますが、1.自律的な意思決定をする。2.個人情報保護 つまり、個人情報の保護の観点から他にデータと個人情報はむやみやたらに流すことはない。当然でありますから1と2は説明する必要はないと思いますが、自分のデータを人に提供することによって、将来の医学の発展にも役立つ。あるいは自分のデータを人に提供することによって、そのデータを集めて何百人の方が、こういう風にやった結果、こういうことが起きた、というようなことがわかるということで、人の役に立つ。そういうことをやりながら、私たち自身のカラダのマップを作って、それを互いに情報交換していくということをしたいというのが、このプロジェクトでございます。

 くどいようですが、「利他」という発想は、いろいろな意味で今注目されていると思います。
 ひとつは、今、申したように、医学的な治験とかそういうものは、自分のデータを提供すること自体が人の役に立つ。あるいは将来の世代の人間に役に立つという発想は、言われてみれば当たり前であり、そういうことは薬の治験なんかでも、欧米では治験を勧めるときに一生懸命コーディネーターが説明します。日本でも、もちろんやるのですが、まだまだ充分ではなくて、人の為に役立とうという気持ちはみんな持っているはずなのですが、それを引き出すような努力をしてこなかった。
 実は、今の発想は個人のデータの提供の発想だけではなくて、中山先生の資料に書いていただいたのですが、今ソーシャルネットワークあるいはソーシャルベンチャー、そういうかたちで社会的な活動としての従来の企業の活動は、やっぱり営利利益を求めるという発想が中心だったわけですが、その多くの企業の国際的な展開をする企業は同時に、自分たちが本当に世界中の人々の健康に寄与するためには利益をちょっと置いといて、どういうことをやったらいいのかという発想を、次第次第にお持ちになるようになっています。

 例を挙げると、かつて製薬メーカーは、エイズの薬を開発したときに、この薬をかなり高めに売ろうとされました。それは高く売ったほうが儲かると思ったのですね。ところが、よく考えたらエイズ患者の対象者はほとんどの方が、貧困な地域に住んでいる方であって、高く売ろうとしても売れない、ということに気がついた製薬メーカーは、かなり安くエイズ薬を提供するという英断をしました。その結果、実はかなり売れて、当初見込んだ利益と遜色のないような利益を得ることができた。

 こういう動きもあり、実は日本のメーカーさん、いろいろなかたちで社会的貢献をされているのですが、まだ日本の企業については今のような理念をもっと明確に打ち出す。あるいはそういうことを上手に宣伝する、ということに関しては、若干遅れていると思います。むしろ私たちは、こういうリタ営利だけではなく、営利もとても大事だと思いますが、営利だけではなくて社会に貢献するということをもっと前に打ち出すという動きは、おそらくこの世界の大きな流れの中では、時代的な要請にかなっていると思っております。今の話は決して私は言い過ぎではなくて、いっぱい事例をあげることができます。

 コトラーというマーケティングをやっている人が、最近、貧困地域にマーケティングをどのように展開するかと議論をしています。いろいろな世界的にグローバルに展開する企業、実は最近余談ですが、GEさんがリバースイノベーションという表現をしておりまして、MRIとかそういう最新技術を、若干最先端技術から少し落ちてもいいから、それを途上国に安く売るということを通して、今言った同じ発想で展開するということを考えているという例があります。
 そういうことがあって、元に戻りますが、私どもは健康情報を共に使うということ、当然学術研究にも役立ちますし、企業もそういうベースに基づく、質の向上をいろいろ展開することもできて、当然医療費の削減という観点からも組合、自治体にも貢献することができるのではないかと思っております。

 ちょっと、時間を超過して大変、申し訳ございませんが、以上、私どもが今、この資料にもありますが、「西村周三」「森谷敏夫」「坂根直樹」と三人の名前が載った資料「健康レスキュー」もございますが、こういったことをやっていこうと思っております。
 この前にいらっしゃる先生方は、おそらくこれは何か儲かると思って来てると(笑)、こういうことがちょっとでも面白いと思う集団でございます。

 みなさまにも、ぜひ、この試み、たくらみに関わっていただきたくお願いとして、今日、このお話をさせていただきました。

 本日は、長時間ありがとうございました。